あなたの為のインターン
雑誌編集者から「人間関係の再構築にいま、何が必要か」というテーマで取材を受けた。
人間関係が危うくなっているのだとすれば、再構築への手がかりはあるのか、それともないのか。
あるとすれば何か。
それを問われた応えた内容を次に示すことで、現代の働き方と転職事情を考えてみるきっかけにしてみよう、Qは受けた質問。
Aは、産業医という立場からぼくが伝えた内容である。
Qいま、働きながらこころの病を発症する人が急増しているといわれていますが、産業医としてどのように感じていますか。
A社会全体を見ると、働きながらこころの病を抱えている人が増えているとのデータは、たしかにあります。
けれども、民間企業の大手と中小の差、民間と官公庁との差など、こころの病への対応にバラつきが生じつつあることのほうが問題だと感じています。
「景気回復の実感がない」とよくいわれますね。
でも、ひと頃の底冷え状態のときより改善しているのはたしかです。
八万寒がりの状態から抜け出ることができたのは、働くことによってこころを病む理由がひとつ減ったことになりますが、同時に将来への不安感が大きくふくらんできました。
民間企業でもメンタルヘルス対策を行うなど、それなりに「手は打った」。
だからといって問題の本質が消えたわけではありません。
働くことによって心身を病むというのは、本来あってはいけないことです。
メンタルヘルス対策は医師の仕事と思われがちですが、そうではないのです。
こころの病になった人と向き合うのはぼくたちの仕事ですけれど、こころを病むような状態にならないためにどうするかという職場のメンタルヘルス対策は人事を中心に、働く人たちが一体となって考える問題です。
Q産業医を訪ねてくる方はどんな年齢の人たちですか。
A最近は若い人が多くなりました。
二〇代が圧倒的に多い。
けれども、働くことによってこころを病んでしまったというより、もともと負のほうに振れやすいタイプの人が多く訪ねてくる点が気になっています。
働いてみて初めてこころを病んでしまったのだと思っていましたが、よくよく聞いてみると、たとえば拒食症で体重が四〇キロを割り込んだことがあったり、リストカットのような白傷行為の経験がある。
あるいは家庭や教育の問題であったりする。
親に逆らってはいけないと思い、「よい子」をそのまま引きずってきた人。
イジメに遭った経験者など……想像以上にいます。
その一方で、まったくのニュートラルできた人が、バランスを崩してしまう例もある。
ぼくも最初は信じられなかったけれど、叱られないまま生きてきた人が意外にいるのです。
で、働きながらなんらかの指摘をされたとき、自分は叱られたのだと思ってしまう。
これまで度も叱られずに生きてきた人が、社会に出て叱られることを経験する。
えっ、そんなばかな、と思うしそのときのダメージが、かなりあるようです。
負のほうに振れやすいといった表現より、こちらは無垢とかナイーブというべきでしょうか。
ともあれ、周りの様子をその都度うかがって気にするようなタイプの人には、こうした例がかなりあるのだろうと感じます。
しかも絶対に譲らないところがあったり、この線から内側は何があっても守ってみせるといった思いが強かったりする。
だから目標は高い。
でも、自分の体調を他人事のように考えている。
たとえば職場に出てこようとして電卓のなかで吐き気を覚えて引き返す。
それが何日も続いている。
有給休暇、遅刻や早退が増えていても、給与には大きく響かないから、そのままでいいと思っているのではないかと、周囲は考えている。
上司は、出社状況が不安定だから期限のあるような仕事はまかせられないという。
そうして連絡があって話を聞くことになる。
体調がすぐれないと訴えているけれど、薬には頼りたくないから自力で治すという。
いや、雇用者と被雇用者の問題でもあるから受診してください、と労務担当者から告げられて、やっと受診する。
そこで重度の病名がつく。
要休養と書かれた診断書を持ってくるけれど、休めば給与が減るから本人は休めないという。
なぜなら、有給休暇がもう底をついているわけです。
実家には黙っていたいと希望し、配偶者にも黙っていたいとこれはものの考え方に根ざす問題ではないかと思えてきます。
どちらかというと高学歴の人に多い。
入社したあとの健診で問診したときに、「いままでに病気やケガ、入院したことはありますか」と問えば「特にありません」という応えが返ってきます。
こちらも「特になし」と記入する。
そのレベルの問診ではわからない。
ですから、とにもかくにも仕事でもって頓挫したのだというケースは、むしろ減ってきているのではないか、との印象を抱いています。
Qもともとそういう気質を持つ人が増えているということでしょうか。
でも、これまでも職場にはいたのではないでしょうか。
こころを病んでしまい働くことができなくなっている人がここまで増えてしまったのは、やはり労働現場に問題があるのではないかと思うのですが……。
Aこの何年かで問題になった過労やこころの病は、五〇代であり四〇代が中心でしたしそのときは不況の真っ只なかであり、リストラや経費削減のなかで、残業時間が大幅に伸びて倒れる人が少なからずいました。
こころの病という点では、四〇代から二〇代、さらに二〇代へと中心が変わりつつあります。
そうした状況を見ると、これは労働現場の問題だろうかと疑問に思うわけです。
中間管理職が疲弊しているのはたしかでしょう。
わかりやすくいえば失速しているイメージです。
中間管理職がかつての元気を取り戻すことは、経済全体を考えるうえで重要ですが、心身の健康を考える労働衛生といった立場からすれば、疲弊しているだけというのは、あまり問題にならないのではないか。
仕事の与え方や進め方、あるいは評価方法を変えることによって、容易に改善される問題だろうと考えられるからです。
働く人たちが心身のバランスを崩すうえで気になっているのは、誰もが「自分最優先」になっていることです。
もうひとつは、「居心地が悪い」という声です。
どこに行っても、こういった話題になってしまう。
昔は共栄共存といっていましたね。
でもいまは、そうしたスタイルが薄れてきています。
それは絵空事だろうという人さえいます。
ですからそのあたりから手をつけていかないと、解決策は見出せないのだろうとぼくは思っている。
なんで「自分最優先」の時代になっているんだろう、なんで居心地が悪くなっているんだろう、と掘り下げて考えていくと、解決策が出てくるのではないかと思っています。
いまの若い人たちが孤立してしまうケースのほとんどは、本人がわからないことを周りに訊かないことが、大きな原因だろうと考えています。
そういう教育を受けた経験がないのかもしれない。
従来まできちんとやっていたOT。
オン・ザ・ジョブ・トレーニングですね。
職業指導手法のひとつで、職場の上司や先輩が、部下や後輩に対して具体的な仕事を通じて育成する教育システムですが、それを職場でもう一度構築していくことが必要ではないか、と感じています。
Qなぜ、若い人たちがわからないことを周りに訊くことができなくなっているのでしょうか。
A自信があるのではないか、と逆に感ずることはあります。
あるいは、訊いたときに「そんなことも知らないの?」といわれてしまった経験があるのかもしれない。
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